翻訳家によるコラム:生物学・分子生物学・バイオ技術コラム

生物学・分子生物学・バイオ技術コラム by平井
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2012年03月19日
医学雑誌の論文に潜む謎

こんにちは。轄kエ翻訳事務所で論文翻訳を担当している平井と申します。

分子生物学やバイオテクノロジーをはじめとする生物学全般に関する翻訳や、医学論文、生化学、ライフサイエンスに関する翻訳など、生物学や医学において、複数の分野にまたがる翻訳も扱っています。指名でのご依頼もお受けしておりますのでご相談ください。

多くの病気には、それを発生させる遺伝子、あるいは少なくとも発生に関係する遺伝子があるのだろうと考えられています。では、ヒトが特定の遺伝子配列を持っているかどうかを知りたいときは、どうすればよいでしょうか。

まず、細胞から抽出したDNAを、酵素を使って特定の部位で切って細切れにし、電気泳動で分子の大きさに分けて、膜にプロットします。一方で、探したい塩基配列に対応する塩基を、順番につなげたものに放射性同位元素(radioisotope)や色素をつけたものを作成しておきます。これを膜の上に順番に並んでいるDNAとハイブリダイゼーションさせると、プローブの塩基配列にピッタリ合う塩基配列の部分と結びつきます。つまり、旗をたてたカギを作り、これに合う鍵穴を探すようなものです。合う鍵穴が見つかるということは、プローブを作って探していたDNAの塩基配列があるということです。これはエドウィン・サザン(Edwin M. Southern)が開発した方法なので、サザン・ブロッテイング(Southern blotting)法と呼ばれています。

同じ原理で、特定のRNAを見つける方法が開発され、Southernに対してnorthern blotting法と名付けられました(この場合は人の名前ではないので小文字で書きます)。一方、電気泳動したタンパク質に、標識をつけた抗体を反応させれば、抗原となるタンパク質の有無がわかります。これがwestern blotting法です。そう、命名はすべてシャレですが、生命科学にはなくてはならない方法です。

最近の医学雑誌は、病気に関してこのようなブロッティングの結果が提示されるものがとても多くなりました。いずれもバーコードのように階段状の線が並んだ写真で、ちっとも美しくありません。「細胞が干し柿のように並んでいるから、これは横紋筋肉腫」などと、形態のみで診断していた時代は終わりを告げました。何年か先には、「病気の診断には病理組織を作るよりも遺伝子検索をする方が確実で早い」という時代が来て、病理専門医という職種が無くなるかもしれません。その先には、外科医や内科医が不要となり、遺伝子異常を見つけて病気を予防する「予防医」や、遺伝子の修復をする「遺伝子工学医」などが必要とされる時代が到来するかもしれません。

轄kエ翻訳事務所   論文翻訳担当:平井