翻訳家によるコラム:生物学・分子生物学・バイオ技術コラム

生物学・分子生物学・バイオ技術コラム by平井
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2012年03月12日
血管壁での炎症反応と動脈壁から見つかったクラミジア

こんにちは。轄kエ翻訳事務所で論文翻訳を担当している平井と申します。

分子生物学やバイオテクノロジーをはじめとする生物学全般に関する翻訳や、医学論文、生化学、ライフサイエンスに関する翻訳など、生物学や医学において、複数の分野にまたがる翻訳も扱っています。指名でのご依頼もお受けしておりますのでご相談ください。

動脈硬化(arterial sclerosis)の始まりは、血管の内皮細胞(endothelial cell)のバリア機能が障害されることです。それによって脂質(lipid)が血管壁(blood vessel wall)の中に浸み込みやすくなります。動脈硬化の危険因子にさらされたり、浸み込んできた脂質(酸化LDL)の刺激を受けたりすると、内皮細胞の接着因子が活性化します。するとそこに白血球(leukocyte)の特に単球(monocyte)が呼び寄せられ、ゆるやかに接着して内皮細胞の上を転がります。転がることで単球自身も活性化して強固にくっつくようになり、やがて内皮細胞の間を潜り抜けて血管の壁に入り込みます。壁に入った単球はマクロファージに変わり、血管壁に溜まった脂質を貪食します。脂質を腹いっぱい食べたマクロファージが集まったものが、血管壁に軟らかい動脈硬化をもたらす粥腫(atheromatous plaque)の主な成分というわけです。

一方、マクロファージはサイトカインを出して、平滑筋細胞(smooth muscle cell)を呼び寄せ、繊維を作らせます。また、血管壁にはT細胞も入り込んできて、脂質に対する炎症反応が進むのを免疫応答によって促進しています。こうして見ると、動脈硬化は免疫チームのメンバー、サイトカインなどの情報伝達システム、増殖因子などの関与により始まり進展していくわけで、まさに炎症疾患と呼べます。

もっと狭い意味での「炎症」として、動脈硬化に感染症が関わっている可能性が報告されています。さまざまなウィルスや細菌が研究されていますが、中でもクラミジア(chlamydia)の関与が考えられています。クラミジアは性感染症(sexually-transmitted disease)の原因となる菌として有名ですが、ここで疑われているのは呼吸器感染症を引き起こす肺炎クラミジアという種類です。肺炎クラミジア(chlamydia pneumonia)に感染すると、風邪とほとんど同じような症状をきたしますが、咳がやや長く続く傾向があるといわれています。免疫力が低下したときに肺炎クラミジアに感染すると、クラミジアは肺を経由して血管にまで忍び込み、そこで慢性炎症を引き起こして、動脈硬化を進展させているようなのです。生きたクラミジアが血管の動脈硬化部分から見つかったことや、肺炎クラミジアの抗体をもつ人は、もたない人の2〜4倍も心筋梗塞や脳卒中の発作率が高いことなどからも、動脈硬化との関連が医療および医学界で示唆されています。しかしどのような機序で、どの程度関係しているのか、まだ詳細は明らかではありません。

ちなみに、クラミジアの抗体には感染を防御する機能がなく、抗体が身体にあっても繰り返し感染する可能性があります。ただし、マクロライド(macrolide)という有効な抗菌薬(antimicrobial drug)があるので、肺炎クラミジアが動脈硬化と関連が高いとすれば、リウマチ熱(rheumatic fever)のように抗菌薬で動脈硬化を予防することも可能になるかもしれません。

轄kエ翻訳事務所   論文翻訳担当:平井