翻訳家によるコラム:生物学・分子生物学・バイオ技術コラム

生物学・分子生物学・バイオ技術コラム by平井
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2012年03月12日
あなたは日和見主義ですか?

こんにちは。轄kエ翻訳事務所で論文翻訳を担当している平井と申します。

分子生物学やバイオテクノロジーをはじめとする生物学全般に関する翻訳や、医学論文、生化学、ライフサイエンスに関する翻訳など、生物学や医学において、複数の分野にまたがる翻訳も扱っています。指名でのご依頼もお受けしておりますのでご相談ください。

日和見主義(opportunism)とは、天気を見てから行動を決めるように、情勢を見て有利な方に付こうとする考え方です。日和見感染(opportunistic infection)の「日和見」も同じ語源のはずですが、意味はちょっと違ってしまいます。日和見感染は、健康者では病気にならないような弱い細菌やウィルスが原因で発症する感染症をいいます。

日和見感染を起こすのは、菌が強いからではなく免疫力が弱っているからです。たとえば、AIDSのように免疫力が低下する病気にかかっているときや、臓器移植(organ transplantation)のために免疫を抑制する薬を使っているとき、加齢や重症な病気のために免疫力が低下しているときなどに発症します。

日和見感染は皮膚や粘膜(mucosa)に常在する菌が原因となる場合もあります。健康なときにはまったく問題にならないような菌にやられてしまうのです。常在菌は日ごろ使われている抗生物質や消毒薬(antiseptic substance)に耐えて生き残っているので、一般的に薬に対する耐性(tolerance)があります。ですから、常在菌をすべて死滅させるような抗生物質(antibiotic)というのは、かなり強力なものでなければならないことになります。つまり、日和見感染はいったん発病すると、有効な薬剤が限られていることが大きな問題なのです。

また、日和見感染を起こすのは入院患者に多いことも重要です。原因となる菌は医療従事者の身体に付いている常在菌であったり、病院の中で生き残っている耐性菌であったりします。一人の患者に感染した菌が、同じ病室のほかの患者によって運ばれて別の患者にうつされたという、いわゆる院内感染が問題となっています。

ちなみに、1960年代の大学闘争では、本来の主義主張を変えて日和見主義に陥ることを「日和る」と軽蔑していたそうです。ここに感じられえる「弱気になって、本来は耳を貸さないような相手の主張に取り込まれてしまう」というニュアンスから、日和見感染が名付けられたのかもしれません。学生紛争を戦った人の中からは医学界でリーダー的な存在になった人がたくさんいるそうなので、もしかしたらそんな人が名付け親なのかもしれません。

轄kエ翻訳事務所   論文翻訳担当:平井