翻訳家によるコラム:生物学・分子生物学・バイオ技術コラム

生物学・分子生物学・バイオ技術コラム by平井
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2012年01月23日
実は恐い鉛中毒について

こんにちは。轄kエ翻訳事務所で論文翻訳を担当している平井と申します。

分子生物学やバイオテクノロジーをはじめとする生物学全般に関する翻訳や、医学論文、生化学、ライフサイエンスに関する翻訳など、生物学や医学において、複数の分野にまたがる翻訳も扱っています。指名でのご依頼もお受けしておりますのでご相談ください。

鉛中毒(lead poisoning)は、毒性などの違いから、鉛化合物によるものとアルキル鉛化合物(alkyllead compound)によるものとに分類されます。鉛は銀灰色の軟らかい金属で加工しやすく、日常生活では鉛電池や通信ケーブル、はんだなどによく使われています。他の金属より密度が高いので、放射線の遮蔽としてもよく使われています。

まず、鉛化合物の毒性ですが、粉塵や皮膚からの吸収により生体内でほとんど代謝されず、90%が骨に蓄積します。生物学的半減期(biological half-life)が約10年といわれているので、蓄積性が高く、慢性中毒が多いのが特徴です。骨の中になる造血器官の骨髄へ容易に浸透し、造血細胞を破壊することにより、赤血球の合成を阻害するため、貧血や顔面の蒼白、疲労しやすい、頭痛などの医学的症状がみられます。他の症状としては、動脈硬化、慢性腎疾患、流産、不妊、食欲不振、嘔吐などがあります。半数致死量(median lethal dose)は1000ミリグラム/キログラムなので、趣味ではんだづけする程度なら、中毒の問題はありません。

一方、アルキル鉛化合物として、テトラエチル鉛とテトラメチル鉛は人体に大変危険です。このテトラエチル鉛の性状は無色の液体でたいへん揮発性が高く、呼吸器から吸収されます。鉛化合物と異なり脂溶性が高いために、血液脳関門を容易に通過し、脳の障害である中枢神経症状を引き起こします。

症状として、初期には頭痛、不眠、食欲不振、全身倦怠感があげられ、そして特徴的な症状として悪夢があります。さらに症状が進むと、発汗、徐脈、顔面紅潮、腹痛や下痢などの症状を経て、幻覚、幻視、幻聴などの精神錯乱状態におちいり、最後には中枢性呼吸麻痺で死亡します。しかし、死亡を免れた場合、後遺症を残すところなく回復するのが特徴です。最小致死量(least fatal dose)は17ミリグラム/キログラム(ラット経口)、6ppm(ラット吸入)です。約1ppmで芳香性であるガソリンや灯油のような異臭がし、それを10分間連続で吸入すると、たいへん危険な状態になります。そのため、テトラエチル鉛は現在法律で規制されています。

鉛筆の芯をなめると、鉛中毒になると聞いたことがありますが、鉛筆の芯の黒鉛は炭素でできていて鉛は含まれていないので、鉛中毒になることはありません。

轄kエ翻訳事務所   論文翻訳担当:平井